情報崩壊を制圧せよ(前編)~ 3パレットの予定が120パレットに〜 大手小売りECセンター立ち上げの軌跡と挑戦

※本連載における「X社」は、守秘義務の観点から実在の複数企業を匿名化した表現です。各回で登場するX社は、必ずしも同一企業を指すものではありません 。

前回は「Chaos(カオス)を正常化せよ」というタイトルで、通販フルフィルメントセンターにおける出荷滞留1.6万件の解消に向けた軌跡と挑戦についてお話しさせて頂きました 。

今回は、大手総合小売グループのX社において、EC機能を集約する専用センターの立ち上げに挑んだ際の軌跡と挑戦を振り返っていきます 。
最初の対象となったのは、会員ポイント交換商品とカタログ通販の出荷業務 。そのうちポイント商品は、SKUが20〜30、出荷量は日当たり約3,000件で、在庫を持たないシンプルな「TC(通過型)運営」として、わずか40坪のスペースでスタートする計画でした 。
しかし立ち上げ当日、現場に搬入されたのは当初想定の40倍となる約120パレットの山 。ロケーション管理機能も十分な保管スペースもない中、TC前提で設計されたセンターが一瞬にして「DC(保管型)」へと化す“情報崩壊”の危機に直面します 。この致命的な前提条件の違いが起こした異常事態を、如何にして乗り越えたのか 。

その軌跡と挑戦を、ぜひご一読ください 。

目次

Prologue

物流センター立上げには、独特の緊張感がある。

新品の作業台。
仮設で並べられたPC。
まだ誰も歩いていない床。
貼りたてのロケーションラベル。
開封されたばかりの梱包資材。
慣れない手つきでハンディを触る新人スタッフたち。

そして、現場に漂う、
「本当に予定通り始まるのか」
という、あの空気。

立上げ初日は、いつも少し静かだ。

誰もが緊張している。
だが同時に、どこか高揚感もある。

何もない空間に、これから物流が生まれる。

物流に携わる人間なら、その瞬間特有の空気感を知っている。

しかし―――
物流立上げで本当に恐ろしいのは、現場オペレーションではない。
本当に怖いのは、
「前提条件そのものが間違っていること」
だ。

「そんなはずはない」
押し寄せる入荷パレットの数に我が目を疑った。

クライアントから聞いていたのは、
「TC型のシンプルなセンター」
だった。

しかし、実態は全く違った。
求められていたのは、DC運営だったのである。

物流業界の方なら、この違いがどれほど致命的か、すぐに理解いただけると思う。
―― ECセンター立上げで起きた“情報崩壊”の始まり
今回の話は、X社のEC専用センターを立ち上げた際に起きた実話である。

――TC、DCとは――
今回のコラムでは、TC、DCの違いがとても重要になるため、事前に説明させて頂きます。

TC(Transfer Center)は「通過型センター」です。

イメージとしては、
・荷物が入ってくる
・すぐ仕分けする
・そのまま出荷する
という、“中継地点”です。
在庫を長期間保管する前提ではありません。

そのため、
・保管スペースが小さい
・棚やロケーション管理が簡易
・システムも比較的シンプル
・作業導線も短い
という特徴があります。

DC(Distribution Center)は、「保管型センター」です。

つまり、
・商品を保管し
・必要な時に
・必要な量を取り出して出荷する
“倉庫”としての機能を持ちます。

そのためDCでは、
・在庫管理
・棚番管理(ロケーション管理)
・入出庫管理
・在庫精度管理
・ピッキング効率管理
などが極めて重要になります。

たとえて言うと下記のようなイメージを持っていただければと思います。

TCは、運動会のバトンリレーのように、「止めずに流す」ことで成立しています。
しかし途中からDC化すると、リレーコース上に大量のバトンが置かれ始めるようなものです。
すると、
• どこに何があるか分からない
• 次走者へ渡せない
• 新しいバトンも置けない
と、一気に現場が詰まり始めます。

プロジェクトの背景

当時、大手総合小売グループのX社ではEC機能を集約する専用センター構想が進んでいた。
最初の対象となったのは
・会員ポイント交換商品(以降、ポイント商品と略す)
・カタログ通販の出荷
の2業務である。

いずれも既存センターで運営されていたが、元々は店舗出荷を主軸としたセンターだった。
しかしEC物流は、店舗物流とは特性が大きく異なる。

店舗物流は「ケース単位」で動く。
一方EC物流は、「1点単位」で動く。

必要なオペレーションも、人員配置も、システム思想も全く異なる。
そのため、EC機能を集約した専用センターへ移管した方が効率的――。
そう考えられていた。

構想自体は、決して間違っていなかった。

TCだから大丈夫

立ち上げタイミングは同日。
それぞれのセンターから商品を移管し、新センターで運営を開始する。

そのうち、ポイント商品は比較的シンプルな案件だと聞いていた。
SKUが20~30、出荷量は3000件/日程度で、在庫は持たない。
1週間分の出荷データを週初めに受領し、数日掛けて出荷するTC型運営。
つまり、“通過型物流”である。
そのため、用意していたスペースもわずか40坪。
システムも簡易だった。
顧客が利用している既存システムをそのまま使うが、実態は「伝票発行ツール」に近い。

TC型(保管が不要)のため、ロケーション管理も不要。
つまり、「何をどこに置くか」を厳密に管理する必要がなかった。
梱包テープや資材を準備し、配送伝票の出力・貼付方法と梱包手順を教育する。

その程度で十分なはずだった。
少なくとも計画上は。

見えていなかったリスク

もちろん、不安がゼロだったわけではない。

ポイント商品のプロジェクトリーダーへ案件共有があったのは、立上げ約1か月前。
しかも別案件を複数抱えながらの兼務状態だった。
立上げ専任ではない。

今振り返れば、かなりタフなアサインだったと思う。

だが、事前に聞いている内容からすると、「何とか立ち上がるだろう」という空気が、確かにあった。

なぜなら、
在庫は持たない
SKUは少ない
システムもシンプル
ロケーション管理も不要
だったからだ。

プロジェクトリーダーだけではない。
立上げメンバー全員に、
「TCだから大丈夫」
という認識があった。

そして、その“前提”こそが、後に現場を崩壊寸前まで追い込むことになる。

異変

立上げ当日。
まだ暑さが残る秋口の三連休だった。
ポイント商品とカタログ通販の商品が、それぞれ移転元センターから搬入されてくる。

午前中は、ほぼ想定通りに進んでいた。
次々とトラックが到着し、商品が作業エリアへ運ばれていく。
ポイント商品チームはまだ出番がない。そのため、手の空いたメンバーはカタログ通販側のフォローへ回っていた。

まだ現場には、どこか余裕すらあった。
この時点では、まだ誰も知らない。
数時間後、このセンター全体が崩壊寸前になることを。

「あれ……このパレット、違うぞ?」
午後、ポイント商品の搬入が始まった。
その瞬間だった。
現場の空気が変わった。。
「あれ?」
違和感が走る。
何かがおかしい。

到着したパレットには、移転用カンバンが貼られていなかった。
カタログ通販商品には、事前に移転用カンバンを貼付していた。
つまり、カンバンがないということは、ポイント商品を意味していた。

しかし、問題はそこではない。
量だった。

明らかにおかしい。
3パレットどころではない。
10tトラックが、ほぼ満載だった。
荷受担当が困惑する。

「これ、どこの荷物ですか?」
顧客へ問い合わせる。
しかし顧客側も分からない。
さらに確認が進む。

X社から、さらに先のグループ会社のクレジット会社へ確認する。

そこで返ってきた回答は、
「どうやらポイント商品らしいです」
だった。

3パレットのはずが、120パレット

最終的に搬入されたポイント商品の在庫は約120パレット。
当初想定の40倍だった。

40坪で回るはずだった現場に、突然“保管型物流”が流れ込んできたのである。
TC前提で設計されたセンターが、一瞬でDC化した。

しかも、ロケーション管理機能はない。
保管前提のスペースもない。
現場経験の浅いメンバーも多い。

だが、荷物は目の前にある。
物流は止められない。

その時現場にいた誰もが、同じことを考えていた。
「……この在庫、どうやって出荷するんだ?」

致命的な前提条件の違いが起こした“事件”ともいえる危機的状況。
後編では、この異常事態をどのように乗り越えたのか、詳しくお伝えしてきます。

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この記事を書いた人

上席執行役員
経営企画・人財組織開発部 部長
国際コーチング連盟 プロフェッショナル認定コーチ
外資系コンサルティングファームでキャリアをスタートし、ネット系ベンチャー、コーチングファームを経て現在に至る。

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