情報崩壊を制圧せよ(後編)~正常化への道程とその本質~ 大手小売りECセンター立ち上げの軌跡と挑戦

※本連載における「X社」は、守秘義務の観点から実在の複数企業を匿名化した表現です。各回で登場するX社は、必ずしも同一企業を指すものではありません 。

前編の振り返り
前編では、TC(通過型センター)として設計・準備を進めていたEC専用センターに、想定の40倍にあたる約120パレットのポイント交換商品が突如流入した瞬間を振り返りました。
「3パレットのはずが、120パレット」
用意したのは40坪。ロケーション管理機能もなく、現場経験の浅いメンバーばかりの状態で、一気に” TC(通過型センター)+DC型(保管型)物流 “が流れ込んできました。
後編では、この混乱状態からどのように立て直し、何を学んだのかをお伝えしていきます。

目次

混乱の幕開け

「……とりあえず、センター長である自分が現場に入るしかない。」

その判断は早かった。

2Fではカタログ通販の立ち上げが同時進行しており、すでに大混乱が起きていた。管理者を回せる余裕はない。ポイント交換商品の担当社員は、今回の立ち上げに合わせて採用したばかりで、物流経験はあるものの職能はまだ不足していた。本来、簡易なTC業務の想定だったため、「立ち上げ時に軽くサポートしながら現場を見てもらえばよい」と考えていた。しかし現実は、そのレベルをはるかに超えていた。

センター長自らが現場に入り、オペレーションをリカバリする。その判断自体は速かった。

――だが後になって気づく。この判断こそが、最大の誤りだった。

現場に立ったセンター長がまず考えたのは、人手の補充だった。120パレットの在庫が突然押し寄せ、整理も追いつかない。出荷も止められない。ならば、人を入れれば何とかなる――そう考え、派遣社員を大量に追加投入した。

しかし、現場はすぐに別の問題に直面する。人が余るのだ。

作業量に対して人が多すぎる時間帯が生まれた。手が空いたスタッフをどう動かすか。その管理のために、また別の作業を生み出す。作らなくてもよい仕事が生まれ、それを管理する工数が増える。人を増やすと、管理コストも増える。これは物流現場における、ごく基本的な原則だ。だが当時のセンター長には、その原則を冷静に適用する余裕と経験が圧倒的に不足していた。

在庫の整理は、出荷作業と並行して進めるしかなかった。ポイント交換商品は商品コード順にパレットを並べなければ、ピッキングに時間がかかる。しかし広いエリアにはフォークリフトが入れず、狭いエリアはハンドフォークで1枚ずつ動かすしかない。やっと整理がついてきた矢先、翌週の入荷が来る。また並べ直しが始まる。ひたすら、その繰り返しだった。

追い打ちをかけたのが、品質要件だった。ポイント交換商品の荷主は、X社グループのクレジット会社である。カード会員への出荷という性質上、品質基準は異常なほど厳しかった。誤出荷ゼロ。これが絶対条件だった。

とりわけ問題視されたのが個人情報の漏洩リスクだ。「Aさんに送るべき荷物がBさんに届く」は、クレジット会社にとって致命的なインシデントになりかねない。慣れない派遣スタッフが作業する中、ミスは起きた。その都度、ダブルチェックが入る。本来想定していない工数が積み上がっていく。

立ち上げから1ヶ月。通常業務はどうにか安定してきた。しかし3PLとしての収支は、数ヶ月にわたり大幅な赤字が続いた。カイゼンを積み重ねても、改善には限界があった。センター長は現場に張りつき続けた。自分で何とかしなければ、という一心で。しかし、本質的な整理は進まない。赤字だけが積み上がっていく。時間だけが過ぎていく。

会社が動く、そして真因に辿り着く

見かねた会社が動いた。

カイゼンチームが現地に入り、まず着手したのは「現場の改善」ではなく、「顧客との交渉」だった。

そもそも、前提が違う。TC想定で組まれた単価と業務委託範囲は、TC+DCオペレーションの実態とかけ離れていた。その乖離を、データと論理で丁寧に説明し、価格改定と役割分担の見直しを申し入れた。

そこで、今回の混乱を収束させるための真因に辿り着く。

センター長が日々行っていた作業の5割は、本来、委託先であるX社側がやるべき業務だった。

顧客との折衝、事務作業――それらはすべてX社の担当のはずだった。しかし実態は、X社の管理者すら現場に常駐していない状態で、センター長がすべてを抱え込んでいたのだ。本来やるべき相手が機能していない穴を、センター長が無自覚に埋め続けていた。それが赤字の慢性化を招いていた、真の構造だった。

指摘を受けたX社は真摯に認め、即座に業務引継ぎが実施された。顧客交渉と事務業務はX社が担うことになり、現場は一気に整理された。並行して、単価もTC想定からTC+DC想定へと改定が成立し、収支は大きく改善した。

さらに当社は、次の一手を打った。WMS(倉庫管理システム)の導入提案である。

既存システムはロケーション管理機能を持たず、そもそもDCオペレーションには対応していなかった。WMSを導入すれば、根本から変えられる。開発費用は当社負担。その代わり、改善効果から生まれる収益はすべて当社の利益とする――。そう合意を取りつけた。

WMS導入で最も効果を発揮したのは、「入荷即出荷機能」だった。入荷予定と受注情報をWMSに取り込み、入荷検品が完了した瞬間に出荷伝票が自動出力される。当日出荷品はそのまま即出荷移動棚へ。在庫品には格納指示が飛ぶ。これまでは、入荷するたびに商品コード順にパレットを並べ替え、そこからまたピックしていた。その二度手間が、丸ごと消えた。

さらに、ロケーション管理の導入により、小物商品はパレット管理から棚管理へと移行。保管エリアはそれまでの半分以下、約80坪まで圧縮された。格納・ピックの導線も大幅に短縮された。結果、収支は黒字へと転換。最終的にセンター長が現場を離れると、さらに収支は改善した。

二つの学び

このプロジェクトで得た教訓は、大きく二つある。

「情報の精度」を常に意識する

同じグループ会社であっても、多重の契約形態になる場合、情報は歪む。伝言ゲームのように、上流から下流に流れる過程で、事実は変わっていく。「3パレット」という情報が、なぜ「120パレット」という実態と乖離したのか。後日、当時の既存3PLベンダーによる意図的な情報操作があったことが発覚した。しかし、それをプロとして見抜けなかったのは、当社の責任でもある。

言われた情報を鵜呑みにせず、自分の目で確かめる。どれほど信頼関係のある取引先であっても、現場の実態は自らの足で確認する。この原則は、物流に限らず、あらゆるビジネスの基本である。

経営者として一歩引く判断力を持つ

はじめて事業責任者に抜擢されたセンター長は、「自分がすべて解決しなければ」という思い込みの中にいた。現場に飛び込み、自ら作業をリカバリしようとした。しかしその結果、本質的な整理は遅れ、長期にわたって赤字を垂れ流すことになった。

正しい順序はこうだ。まず一歩引いて、現状を正確に把握する。自分の手に負えないと判断したなら、速やかにアラートを上げ、会社として対処する。現場に入ることと、現場を正しく見ることは、別のことだ。

当時は複数センターの同時立ち上げも重なり、会社全体としてのリカバリも遅れた。その影響は否定できない。だがそれ以上に、「自分でやらなければ」という思い込みが、判断を遅らせ、傷口を広げた。いかに経験豊富なプロフェッショナルであっても、視野が狭くなれば正しい判断はできない。自分一人で抱え込まず、組織として動く。それが、経営者に求められる最初の一歩だ。

この経験は、今も当社にとっての戒めとして残っている。

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この記事を書いた人

上席執行役員
経営企画・人財組織開発部 部長
国際コーチング連盟 プロフェッショナル認定コーチ
外資系コンサルティングファームでキャリアをスタートし、ネット系ベンチャー、コーチングファームを経て現在に至る。

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