前編・中編では、事業停止寸前にまで追い込まれた物流現場をどのように立て直し、X社のビジネスの急成長にフルフィルメントセンターとして如何にして伴走してきたのかを振り返ってきました。
しかし、すべてが順風満帆だったわけではありません。成長のスピードが増すほど、現場は新たなひずみやリスクとも向き合うことになります。
後編となる最終章では、その“成長の裏側”で実際に起きていた新たな危機に触れていきます。
外部倉庫への分散、終わりの見えない緊急補充、複雑化する引き当てロジック――。
拡大に対応するための打ち手が、別の難しさを呼び込み、現場の判断をよりシビアにしていった局面です。
当時の現場で実際に起きていたことを、できる限りリアルにお伝えしていきます。
是非ご一読ください。
事件前夜
まず、アウトソーシングフェーズへ移行するまでを簡単に振り返りたい。
弊社が支援に入る前、フルフィルメント(受注から出荷までの一連の業務)のオペレーションは逼迫し、受注から出荷まで実に2か月以上かかるなど、一時は事業停止も視野に入るほどの危機的状況にあった。
しかし、コンサルティングフェーズにおける整理整頓や余剰在庫の返却、入荷オペレーション(商品の受け入れと在庫登録)の整流化といった施策により、現場は一旦立て直され、顧客へのサービスレベルも安定。X社の通販ビジネスは、新たな雑誌の発刊を実現するなど、再び成長軌道に乗っていった。
しかしこの成長こそが、次なる構造的なひずみを生むことになる。新規商材の追加と販売拡大により、商品点数・在庫数はいずれも増加の一途をたどり、既存のフルフィルメント体制では吸収しきれない状態に陥っていった。
結果として、マザーセンター(出荷の基点となる主倉庫)単体では収容能力の限界を迎え、外部に2拠点の倉庫を追加で確保。一方にはバンボやベビーサークルなど荷姿が大きく、かつ出荷頻度の低い在庫を、もう一方にはアパレルを中心とした同様に滞留傾向のある在庫を分散保管する体制を敷いた。そして、マザーセンターの在庫が不足するたびに、これら外部倉庫から横持ち(倉庫間で在庫を移動すること)で補充するオペレーションを常態化させていた。
そこで事件は起こる。
春先は出荷のピークであり、特にアパレルの夏物が大量に入荷される。4月発刊の商品に向けて、3月の第3週頃から何百ケース単位で商品が次々と流れ込んでくる。発刊日の前日までに、これらをすべて入荷計上(システム上で在庫として登録すること)しなければ、販売可能数として認識されず、注文に対して在庫を引き当てることができない。そのため、大量入荷された商品を短期間で正確に計上しきることが絶対条件となっていた。
また、出荷オーダー数は平常月で2,000~3,000件程度であるのに対し、4月は6,000~7,000件に膨れ上がり、1注文あたりの商品点数(明細数)も2.3点から4.6点へと倍増していた。
しかしながら前述の通り、全量はマザーセンターには収まりきらないため、4月15日発刊の新製品在庫は2拠点の外部倉庫にも分散して配置されていた。
ここで重要なのは、引き当て(注文に対して出荷する在庫をシステム上で確保する処理)の対象は、あくまでマザーセンター内の「出荷エリア」の在庫に限られていた点である。
マザーセンターのバックヤード(保管エリア)と外部倉庫にある在庫は、引き当て対象とはならないため、合計して在庫が100個あったとしても、マザーセンターの出荷エリアに20個しかなければ、引き当ては20個に留まる。
残りの80個はマザーセンターのバックヤード、若しくは外部倉庫からマザーセンターへ補充する必要があるが、『事件』を理解してもらうために、この補充の仕組みについて説明をしたい。
補充には「通常補充」と「緊急補充」の2種類がある。
補充担当が各商品の出荷傾向と出荷エリアの在庫量を見ながら、数日分の出荷に必要な在庫をあらかじめ確保しておくよう、計画的に補充する運用である。出荷実績を分析して補充するロジックのため、新製品は通常補充のロジックは適用されない。
一方で、緊急補充とは、当日出荷分のうち、出荷エリアで不足した分を、バックヤードや外部倉庫の在庫からその都度補充することを指す。
例えば、当日の出荷が50個で、出荷エリアの在庫が15個とすると、35個がバックヤードや外部倉庫の在庫に補充指示がかかる。
その名の通り、本来は通常補充で事前に必要量を確保しておき、想定以上に出荷が増えた場合のみ緊急補充で補う、という考え方で設計されている。
そのため、緊急補充は、マザーセンター内のバックヤードから出荷エリアへの補充を想定している。というのも、当日の出荷引き当て分は、当日に出荷するため、外部倉庫から取り寄せていては時間的に間に合わないからである。
デスマーチのファンファーレ
さて、ここからがいよいよ事件の本題である。
出荷が急増する春先、出荷引き当て処理を行うと、外部倉庫への大量の緊急補充がかかる。
これは何を意味するかというと、当日出荷すべきものが大量に出荷できない(間に合わない)かもしれない、ということである。
まずい。極めてまずい。
緊急の10乗レベルの緊急度で、外部倉庫からトラックを走らせる。
しかし、想定していない大量の在庫がマザーセンターに突然流れ込んでくるため、置くスペースがない。
やむを得ず、スペースを無理やり確保しながら入荷する。当然ながら作業効率は大きく低下する。結果、出荷作業は深夜まで及ぶ。
これは一度発生してしまうとエンドレスのデスマーチの始まりとなる。
どういうことか。
緊急補充は、あくまでも当日出荷に必要な量しか補充されない。
翌日になって引き当てをすると、また、外部倉庫からの緊急補充がかかる。
引き当て→外部倉庫からの緊急補充→スペースを作りながらの出荷作業→深夜まで終わらない。
ただひたすら、この繰り返しである。
当然ながら、この負のループは断たねばならない。
事件の真因と反省
そこで、補充タスクフォースを立ち上げ、各商品の出荷傾向を見極め、外部倉庫から計画的に通常補充を行うオペレーションへと切り替えた。
一見すると当然の対応に見えるが、実際には緊急補充と通常補充を同時に行うと在庫の引き当てが競合してしまうため、緊急補充が終わってから通常補充を行う必要があり、結果として通常補充は深夜作業となった。加えてトラックも深夜便となり、コスト増を招く要因となった。
何より、マザーセンターに入りきらないために外部倉庫に逃がしていたわけで、全商品について最新の出荷傾向を踏まえ、適正な在庫量をタイムリーに判断し続けるという、非常に高度な運用が求められた。
そもそも、どうしてこの「事件」が起こったのか。
それは、当社が成長過程にあり、十分な人的リソースを確保できていなかった点にある。
各工程には当社社員を工程リーダーとして配置していたが、人手不足の中で、経験の浅い社員を入荷工程にチャレンジアサインとして配置した。
その社員が担当する中、春先の大量入荷の時期に入り、マザーセンターに入りきらない在庫をどうするか先輩社員に確認したところ、「外部倉庫に逃がせばよい」と指示され、入らないものは片っ端から外部倉庫へ逃がしていった。
しかし、本来であれば、必要十分な量はマザーセンターに確保しておくべきでありその判断や指導が十分ではなかった。
加えて、タイミングの悪いことに、出荷が急増する春先に向けて、オペレーション効率を高めるためのレイアウト変更の真っただ中でもあった。レイアウト変更では一時的に在庫や棚を移動させる必要があるため、通常以上にスペースが逼迫していた。
当時を振り返ると、現場に指示を出す立場でありながら、業務全体の流れや前後工程とのつながりを十分に捉えきれないまま対応を進めてしまっていた点が、大きな課題であった。とりわけ、外部倉庫へ在庫を移すという判断が全体のオペレーションにどのような影響を与えるのかについて、意味や波及範囲の理解が不十分なまま進んでしまっていた。
もっとも、これは特定の個人だけに帰する問題ではない。業務を任せる側として、作業手順だけを共有するのではなく、全体の中で当該業務が果たす役割や、前後工程との関係を含めて丁寧に説明し、共通認識をつくる必要があった。しかし、その点が不足していたことも、今回の反省点である。
結果として、複数日にわたる長時間労働が発生してしまった。
本件は、人的リソースが十分でない中での当社の判断および体制に起因するものであり、重く受け止めている。
パソコンが燃える?
前述の通り、X社のビジネスの成長により、在庫がメイン倉庫に収まりきらなくなり、一部の商品は外部倉庫へ保管し、必要に応じて倉庫間で在庫を移動(横持ち)していた。
当時のメイン倉庫は複数フロアにまたがる構造となっていたため、荷姿が似通っている商品カテゴリ毎にフロアを割り振って保管する形を取っていた。
メイン倉庫では、最終的にユーザーが注文した商品をまとめて梱包し出荷する必要がある。しかし、倉庫が複数階に分かれているため、注文ごとに商品を集める「オーダーピック(1件の注文単位で商品を集める方式)」では移動距離が長くなり、効率が悪かった。
そのため、まず各フロアで複数注文分の商品をまとめて集める「トータルピック」を行い、その後、オーダーピックして梱包・出荷するというオペレーションを取っていた。
トータルピックされた商品は「日替わり棚」と呼ばれる一時保管棚に格納し、そこからオーダーピックをする、という運用としていた。(日替わり棚については、こちらを参照ください)
日替わり棚は、オーダーピックが進むにつれて、空になり、空いた棚には次のトータルピック分の商品が格納される。つまり、日替わり棚を循環させながら運用していたのである。
ここで重要となるのが「引き当て」である。
「引き当て」とは、どの注文に対して、どの商品を、どの保管場所から出荷するかをシステム上で割り当てる処理を指す。
本プロジェクトでは、商品カテゴリ、すなわち保管フロアを考慮しながら、できる限り効率よくピッキングできるよう処理を行わなければならなかった。
トータルピックは複数の注文分の商品をまとめて集め、その後に注文単位へ仕分ける(トータルピック完了→オーダーピック開始)という流れであるため、「どの注文同士をまとめるか」が極めて重要となる。
そのため、各商品がどのフロアに保管されているか、また何点の商品をピックする必要があるか(=ピックロケーション数)を考慮しながら、全体の作業が滞りなく流れるよう引き当てを行う必要があった。
さもないと、オーダーピック担当者がトータルピック完了まで待たされる「手待ち」が発生したり、日替わり棚が空にならずに滞留してしまう。
つまり、倉庫全体の生産性の低下に直結してしまうのである。
そんな中、また新たな事件が勃発する。
この引き当てロジックは、日々改善とアップデートを重ねていた。
作業指示書を何行(何明細)単位で区切るべきか、1枚の作業指示書当たり合計何個の商品をピックすべきかなど、考え始めると際限がない。それらを現場の状況を見ながら、日々試行錯誤を繰り返し、適切なロジックを模索し続けていた。
しかしながら、その複雑さは当時のコンピューター性能の限界を超えていた。
ついには処理負荷でパソコンがもうもうと煙を上げ始めたのである。
幸い大事には至らず、今では笑い話となっているが、それだけ高度で複雑なオペレーションに挑戦していたことを象徴する出来事であった。
Chaosへの挑戦、その先に得たもの
本プロジェクトは、当社史上でも屈指の難易度を誇る案件であった。まさに挑戦の連続であったが、結果として以下の成果を上げることができた。
- 16,000件の滞留を解消し、受注から出荷までのリードタイム2日を実現
- 出荷作業の処理能力は改革前と比較して2 倍以上の向上となり、コストは3分の2まで削減
- 保管効率は1.5倍以上向上し、最大3か所に分散されていたセンターを1か所に集約
- 入荷作業における10 万分の1前後の誤差率での作業精度を実現(改革前比で200倍以上の精度向上)
一方で、本稿で一例を挙げたが、多くの失敗も経験している。その経験が血肉となり、現在のシーオスへと繋がっている。
次回は、番外編として、本プロジェクトで当社が発表した論文を抜粋してご紹介し、可能な限り包括的に本プロジェクトにおける思想や改革の要諦をお伝えしたい。

