SLAM方式 AMR導入に関するリスクアセスメント報告書 〜『ガイドレス化』の壁を乗り越え、柔軟性と安全性を両立するための鍵〜

目次

はじめに: AMR導入における「安全性の証明」という壁

現代の市場環境が絶えず変動する中で、製造・物流拠点にはレイアウト変更へ迅速かつ柔軟に対応する能力、すなわち「Agility (柔軟性)」が求められる傾向にあります。この要求に応えるための戦略的な選択肢の一つとして、従来の磁気テープ誘導式 AGV (Automated Guided Vehicle: 無人搬送車)から、SLAM (Simultaneous Localization and Mapping)技術を搭載したAMR (Autonomous Mobile Robot: 自律搬送ロボット)への技術移行が注目されています。

しかし、この技術移行にはひとつの大きな課題が存在すると考えられます。それは、走行ルートを規定する物理的なガイド(磁気テープ等)をなくすことによる「安全性の証明」です。物理的な制約に頼らない自律走行は、その安全性をいかに客観的に担保するかが、導入における大きなハードルとなり得ます。

本報告書は、この課題に対し、SLAM方式AMR導入に伴うリスクを体系的に分析することを目的としております。特に、グローバルで支持されており、製品がその使用者の健康や安全保護などを規定した各指令の必須要求事項を満足していることを示す欧州共通の「CEマーク」を評価の軸に据え、客観的なリスク評価の論点を整理し、安全で効果的なAMR導入の一助となる指針を提示します。

背景・課題の分析: 誘導方式の変化と「リスクの所在」の移動

搬送ロボットにおける誘導方式の違いは、単なる技術的な差に留まりません。それは、安全性の考え方、ひいてはリスクアセスメントのアプローチそのものを変える本質的な論点となり得ます。

従来型: 磁気テープ誘導方式(AGV)

  • 仕組み: 床面に敷設された磁気テープをセンサーでトレースし、定められたルート上を走行する物理的なガイド方式です。
  • リスク特性: 安全性の前提は「走行ルートの物理的固定」にあると考えられます。ロボットの逸脱リスクが比較的低いため、主な安全対策は「隔離 (柵の設置や作業者の立ち入り制限)」となる傾向があります。このアプローチは確実性を持ち合わせる一方で、レイアウト変更が難しく柔軟性に欠けるという側面を抱えています。

新方式: SLAM 技術(AMR)

  • 仕組み: 搭載センサー (LIDAR やカメラ等)で環境を認識し、自己位置を推定しながら、物理ガイドなしに自律走行します。
  • リスク特性: 安全の前提は、「ロボット自身の状況判断能力 (機能安全)」へと移行していくと考えられます。ルートが固定されていないため、人と空間を共有して稼働しやすくなりますが、障害物を検知して回避する一定水準以上の安全性能が求められることになります。

まとめ: リスクの所在が「環境(ルート固定)」から「ロボット本体 (自己判断)」へと移る傾向があるため、ガイドレス化にあたってはリスクアセスメントの視点を変えていくことが推奨されます。

解決策の提示: リスクアセスメントの核心となる「CEマーク」

SLAM方式 AMRの導入において、物理的な走行ガイドがなくなることは、導入企業様側のリスクアセスメント(危険性評価)の負荷を増大させる可能性があります。この課題を和らげ、客観的な安全性を証明する鍵の一つとなるのが、「国際基準に基づく客観的な安全証明」、すなわちCEマークの取得です。

リスクアセスメントの効率化

CEマークは、メーカーの独自基準ではなく、第三者機関も認める国際規格への適合を証明するものです。CEマーク取得済みの機体を採用することは、導入時の安全審査プロセスを「円滑化・確実化」する上で、非常に有効な手段となり得ます。

なぜなら、安全機能の信頼性 (PL評価: Performance Level 等) が国際基準に則ってあらかじめ担保されているため、導入企業様がロボット単体の安全性能をゼロから評価するご負担を和らげることができ、リスク評価の工数削減に大きく寄与すると考えられるからです。

支えとなる国際規格

CEマークの信頼性は、主に以下の国際規格によって支えられております。

  • ISO 3691-4 (無人搬送車に関する国際規格): ロボット本体の構造、安定性、ブレーキ性能といった、物理的な安全設計に関する要件が規定されています。
  • ISO 13849-1 (制御システムの安全性): 障害物検知や緊急停止などの制御システムが、意図通りに機能する信頼性レベル (PL) を保証するものです。

自社製品のご紹介: TUGBOT2 におけるリスク軽減策の具体例

ここでは、自律搬送ロボット「TUGBOT2」を事例として、CEマーク準拠の安全設計がガイドレス走行のリスクをどのように軽減し得るかを紹介します。

  • 安全性の客観的証明
    TUGBOT2は、国際規格「ISO 3691-4」および「ISO 13849-1」に準拠し、CEマークを取得済みです。この安全性は、世界的な大手自動車メーカー等の厳格な基準を求められる現場での採用実績を通じてもご評価いただいております。
  • 実装されている具体的安全機能
    TUGBOT2 に搭載されている機能と、そのリスク軽減効果は以下の通りです。
安全機能リスク軽減効果の分析
多層的な障害物検知システム2D-LIDARとステレオカメラという異なる原理のセンサーを組み合わせ、死角や弱点を相互に補完。複雑な実環境下でも確実な検知・回避能力を実現します。
至近距離でのハードウェアロック *10〜10cmの至近距離で障害物を検知した場合、制御ソフトを介さず物理的に電力を遮断して停止させます。通信エラー時でも衝突を防ぐ、極めて信頼性の高いフェイルセーフ設計です。
自動充電機能バッテリー残量を自律管理し、充電忘れによる意図せぬライン停止のリスクを排除します。

CEマークという国際基準に準拠し、それを具体的な安全機能として実装していくことが、リスクを許容可能なレベルまで低減させていくための一つの鍵になると考えております。

おわりに: 安全なガイドレス搬送への移行要件

磁気テープ誘導式AGVからSLAM方式 AMRへの移行は、生産現場の可変性と柔軟性を高めるための自然な技術進化の流れと言えます。しかし、物理的なガイドをなくすという変化は、ロボット本体の安全性に対する要求水準を引き上げる側面もございます。リスクアセスメントの観点から、ひとつの有力な結論が導き出されます。

それは、「ロボット本体が国際的な安全基準 (CEマーク)によって客観的にその安全性を証明されている機体を選定していただくこと」です。

この点が、安全かつスムーズなガイドレス搬送を実現していくための重要な成功要因になると私どもは考えております。このようなアプローチをお取りいただくことで、導入企業は安全性を確固たる土台としつつ、AMRがもたらすレイアウト自由度の向上や運用価値をより一層引き出すことが可能になると考えます。

*1:ハードウェアロックは至近距離でのみ実装されているわけではありません。
本体速度に応じてその停止エリアを可変させることで安全を担保しています。その、速度検知〜検知エリア設定〜障害物検知〜ブレーキ実行までのシステムがきちんとPLによって保証されています。

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この記事を書いた人

ロボティクス事業部
副事業部長

キヤノン株式会社でインターネット黎明期のISP事業立ち上げに参画し、グループの通信インフラ構築を牽引。
株式会社ユビテック取締役として事業再編と新規サービス創出を主導し、JASDAQ上場に貢献。
さらに株式会社ブロードバンドタワーでIoT新規事業を推進。
事業創造を連続的に成功裏に導き、現在に至る。

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