Chaos(カオス)を正常化せよ 前編 ~変革前夜 崩れた秩序の中で~ 出荷滞留1.6万件 通販フルフィルメントセンター改革の軌跡と挑戦

※本連載における「X社」は、守秘義務の観点から実在の複数企業を匿名化した表現です。各回で登場するX社は、必ずしも同一企業を指すものではありません。

前回は「スループットを最大化せよ」というタイトルで携帯キャリアのロジスティクスセンターの飛躍的な生産性向上の軌跡と挑戦についてお話しさせて頂きました。

今回は、当時、ライフイベントを起点とする情報提供とマッチングを中核に、複数の専門特化型サービスを並行展開していたX社における、ベビー・キッズアパレルの通販事業のフルフィルメントセンターでの軌跡と挑戦を振り返っていきます。

商材はベビー・キッズのアパレル・グッズ。商品の荷姿は細かなキーホルダーから室内テントまで幅広くSKU※は約2万6,000点(商品の改廃が激しくシステムへの登録SKUは15万点以上)。

当社に託された時点で滞留件数は実に16,000件超。足の踏み場もない、まさにChaos(カオス)状態のセンターを如何にして正常化したのか。

その軌跡と挑戦を、ぜひご一読ください。

※SKU(Stock Keepint Unit)受発注や在庫管理を行う際の最小の管理単位。
例えば、同じTシャツでも「色」と「サイズ」の組み合わせごとにSKUが分かれます。
カラーが4色、サイズがS・M・L・LLの4種類ある場合、「赤S」「赤M」「赤L」「赤LL」…というように組み合わせごとに管理され、4色 × 4サイズ = 合計16SKUとなります。

目次

Prologue

Chaos(カオス): 混乱, 混沌, 無秩序, 乱脈
これほどまでに、その言葉がしっくりくる光景があるだろうか。

一歩、倉庫の中へ足を踏み入れた瞬間、息をのんだ。
そこに広がっていたのは、整理も秩序もない、まさに混沌そのものだった。
X社のフルフィルメントセンター―その場を言い表すのに、「惨状」という言葉すら、生ぬるい。

滞留件数は16,000件を超えていた。
それでも、荷物は次々と倉庫に押し寄せてくる。
仕入れ先には小規模事業者も多く、バーコードのない商品も少なくない。
スキャンもできず、分類もできず、入荷作業は詰まり、止まり、滞っていく。

滞留件数が物語る通り、荷物は出ていかない。
動かぬ荷物がスペースを奪い、格納場所は見る間に消えていく。
倉庫の隅には開梱されない段ボールが積み上がり、スタッフたちの目の奥には疲労と諦めが宿っていた。

顧客からのクレームも、鳴り止むことはない。
電話はひっきりなしに鳴り、メールは溜まり続け、現場の誰もが“今”に追われ、“明日”を語る余裕を失っていた。
当時業務を請け負っていた某3PL業者は、もはや打つ手もなく、倉庫の天井をただ見上げるばかりだった。

そんな状況下で、私たちに託されたミッションは、たったひとつ。
このカオスを、正常化せよ。

滞留件数を一刻も早く“ゼロ”に戻し、顧客から信頼されるフルフィルメントセンターへと変貌させる。

それは、簡単な改善では済まない。

“仕組みそのもの”を変える、全方位からの変革が求められた。
この無秩序と混迷の中で、私たちはどう立ち向かったのか。

プロジェクトの背景と目的

時代は2006年。
X社はベビー・キッズ向けアパレルやグッズを扱う通販事業を立ち上げたばかりだった。

同社の強みは、長年培ってきた営業力にある。顧客ニーズを的確に捉え、魅力的な商品を提案する力は高く評価されており、その力を武器に通販事業も順調に受注を伸ばしていった。カタログや販促施策が当たるたびに注文は増え、事業は勢いよく拡大していく。

だが皮肉なことに、その成長こそが新たな課題を生んでいた。

フロントでは受注が次々と積み上がる一方で、バックエンドである物流・出荷の現場は、そのスピードと量に追いつかない。
注文は確実に増えている。だが、商品を届けきれない。

出荷待ちのオーダーが積み上がり、現場では人員の追加や作業時間の延長など、さまざまな対処が試みられた。しかし、こうした現場の努力だけでは限界が見え始めていた。

フロントとバックの間に生じたこのギャップは、もはや日々の現場調整で吸収できるレベルを超えていたのである。

抜本的にフルフィルメントの仕組みを見直さなければ、成長そのものが事業のボトルネックになりかねない。
そうした危機感の中で、X社が支援を求めたのが当社であった。

当社のミッションは明快。
このChaosを可及的速やかに正常化する。

だが、その道のりは決して平坦ではなかった。

難易度を極めたロジスティクス特性

本案件は、当社史上指折りの難易度の高いプロジェクトであった。
そこで、今回は本プロジェクトのクライアントのビジネスやロジスティクス特性について少し詳しく説明させて頂く。

情報誌を中核事業とするX社は、その出自を強みに、独自の通販事業を展開していた。
カタログに頼らず、情報誌やネットを活用した深い情報提供により顧客の潜在需要を掘り起こし、多様な商品を短いサイクルで市場に投入する。
さらに、仕入販売ではなく販売代行というビジネスモデルを採用することで、高い機動性を実現していた。

一方で、新刊を出すと大量に注文が入るが、モノが届かないため離脱が起こる、ということが繰り返され、事業を止めなければならないのではないか、という危機的状況に陥っていた。

この事業を成立させるためのオペレーションは、極めて難易度の高いものだった。
とりわけSCM、なかでも川下に位置するロジスティクス領域では、その複雑性が限界に近づいていた。

その複雑性を生んでいる要因は大きく4つある。

① 商品のオリジナリティ
他では手に入らない商品を扱うことで、多くの販売会社と取引を行っていた。その結果、商品個装に標準バーコードが付かないケースも多く、定番品は少ない。新規商品の比率が高いため、需要予測は極めて難しかった。

② 膨大な商品点数と荷姿の多様性
登録商品数は約15万点、販売可能商品は約2万6千点にのぼる。キーホルダーのような小物から室内テントのような小型家具まで荷姿は多様で、ほぼすべてが複数商品の同梱出荷となるため、荷扱いの難易度は非常に高かった。

③ 販売代行というビジネスモデル
商品提供は販売会社が担い、受注から配送までを当該企業が代行するモデルを採用していた。通販期間終了後には商品が返却され、約75%が入れ替わるため、倉庫内では頻繁に大規模な商品移動が発生していた。通販期間の終了時には、毎回引っ越しを行っているような商品移動が常となる。

④ 販売活動の多様性と変動性
紙媒体、DM、ネット、メールなど多様なチャネルで販売促進を行うため、需要変動が大きい。常に何らかの販促施策が走っている状態であり、物流には高い柔軟性と即応力が求められていた。

当社はプロジェクトを受けるにあたり、すぐに改革に移るのではなく、クライアントのロジスティクス特性を踏まえ、KSF(Key Success Factor:勝敗を分ける最重要ポイント)の見定めから入っている。

そこで、当時の資料より、当社の理解を共有させて頂く。

ダイレクトマーケティングによる無店舗販売では、本来お客様が担う購買プロセスを、売り手側が代行する必要がある。
その代行の品質は顧客満足度を左右し、同時にコスト面では通常の店舗小売以上の負担となるため、品質とコストの最適なバランスを保つことが重要な設計課題となる。

加えて、店舗販売と同様にロジスティクス機能も求められ、配送を店舗単位で行うのか、個別顧客まで行うのかによって、バラ率やケース数といった物流効率に大きな差が生じる。

これを別の視点で捉えると、全国に一店舗しかない小売に、購入商品を決めた顧客が毎日殺到する状況と同じである。
顧客が迷わず、間違えず、ストレスなく、迅速に買い物を終えられるかどうかが満足度を決める。

この「買い物体験」をいかに高得点に設計できるか。
その発想でプロセスセンターを設計・運営することが、無店舗販売における成功の鍵となる。

上記の設計思想のもと、具体的にどのようにして当社史上屈指の難題であるChaosを正常化してきたのか。

次回以降、「オペレーションコンサルティングフェーズ」「アウトソーシングフェーズ」に分けて、カオスを正常化した軌跡と挑戦を詳しく解説していく。

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この記事を書いた人

上席執行役員
経営企画・人材組織開発部 部長
国際コーチング連盟 プロフェッショナル認定コーチ
外資系コンサルティングファームでキャリアをスタートし、ネット系ベンチャー、コーチングファームを経て現在に至る。

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